arma o santo

つまらない石ころを綺羅星の如く見せるように。世界を極彩色に見せるように。恋のように。

醜い蛙が美しい人間になるように。死者が百万年の眠りから覚めるように。御伽話のように。

銀の弾丸が貴方の胸を貫くように。

くちづけて。魔法をかけて。

 

ルパンの頬にはルージュの跡。シャンパングラスについた口紅と同じ色の。

「不二子か？」

「んにゃ？でもとびっきりのかわいこちゃんさ」

ご満悦のルパンが笑う。ちょっとひとがバーに出かけた間に、アジトに女を招くなよ、といいかけて、口をつぐむ。
当面は特に仕事の計画もない。だが休暇というわけでもない。なんとなくだが、恐らく、近いうちに仕事が入る。そんな気がしている。長年の付き合いからくる、勘だ。

「火遊びは程々にしておけよ」
「遊びねぇ。俺はいつでも本気よ？恋に仕事に全力投球。人生ってのはそーじゃないと」
「よくいう。ま、火傷しねぇように気を付けるこった」

「火傷するのは俺に本気になる女の方さ」

「余計性質が悪りぃや」
次元はやれやれと肩を竦めた。

「いーじゃねぇか、一仕事の後の命の洗濯！第一、今はおやすみ中だぜ」

「ふぅん？その一仕事とやらから随分経ったけどな」

まぁそうだけども、とルパンが苦笑する。

「かーたいこというなって。お前が得物に弾と一緒に愛情込めるようなもんさ。口づけて魔法にかけて！そうすりゃ南瓜だって馬車になる。な、願掛けさ」

「けっ。その願掛けだと、零時で魔法は解けちまうな」

肝心の仕事の時間に魔法が切れるようなゲン担ぎは洒落にならねぇぜ。

「そういうなってぇ。キスは魔法よ？かけるも解くも自由自在！お前も知ってんでしょーよ、あの魔法の威力ってやつを」

知っているとも。
とびきりの魔法を使う奴を。
次元はひしゃげた箱からひしゃげた一本を取り出してくわえた。

だが俺の知ってるお前の魔法はキスじゃあない。唇は唇でも、そこから紡ぎだされることばのほうだ。舌先三寸のほうだ。

気付くといつのまにか丸めこまれて、朝っぱらだろうが深夜だろうが日付変更線の向こうだろうが駆り出されて、息を切らして追いかけっこをする羽目になっている。

でもまぁ、悪くはないさ。

それがお前の魔法にうまいことかけられてるってことなら、多少癪だが。

 

ほら、俺を精々うまく魔法にかけろよ。

お得意の唇で。

 

かちりとくわえた煙草に火を点けて、ルパンがこちらを向く。

「ん」

煙草がひょこっと動く。誘われるように顔を寄せた。

じりっと音にならない音をたて、先端を触れ合わせた煙草から火がうつる。馴染み深い紫煙がふぅっと鼻を掠めた。

「…で？」

「ん？」

「とぼけるんじゃねぇよ。今度はあの女に何を強請られたんだ」

「あらら、次元ってば疑り深いのね～。不二子ちゃんじゃなーいっていってるでしょうが」

「ふん。あの女じゃなきゃ誰がここを嗅ぎ付けるってんだ」

「まーまー。女連れこんだのは悪かったってぇ」

「シャネルの五番」

ぎくっとルパンが肩を揺らす。

「…だったっけか？隠したいなら、今度から残り香にも注意するんだな」

お前さんからぷんぷん匂うぜ。

あららとルパンが頭を掻く。

「鼻が利くこと」

「誰かさんのおかげでな」

嫌でも疑り深くなるさ。

ふぅとルパンは嘆息した。

「何処の誰がネタ元でもよ、下りるなんていわせねぇぜ？相棒」

おもしろそうなヤマなんだ。

きらりと黒い目がひかる。その輝きを帽子のつばで遮って、忌々しいとばかりに吐き捨てた。

「けっ。いってろよ」

「おや、乗らないの」

「乗らねぇともいってねぇよ」

「うん？」

「だから、早くそのおもしろそうなヤマとやらの話を聞かせろよ。そっからだろうが」

ルパンは我が意を得たりとばかりににやりとし、ルージュのついたままの間抜けな頬で不敵に笑った。

 

Fire in my heart.

火を点けられてしまった。


----------
title by BALDWIN.

そしてマグナムが火を噴く羽目になるのです。
次元ってたまに弾や銃にちゅっとしてるよね。