arma o santo
ルパン三世(主にアニメ2nd)の感想を淡々と上げてゆく感想置き場です。たまに二次創作があります。原作はまだ読めてません。4期決定おめでとう!
2012'04.03.Tue
不二子ちゃんの休暇と、五右ヱ門。
男三人とは距離を保ちつつ悪戯につついてはたのしむ感じかなと思った。
男三人とは距離を保ちつつ悪戯につついてはたのしむ感じかなと思った。
灰皿も汚れない
峰不二子はアジトを持たない。彼女はそれを別荘と呼ぶ。
アジトには手入れが不可欠だ。数か月、或いは数年放っておくこともあるルパンの世界各地にあるアジトは、時々は埃まみれで、忘れ去られて朽ちているものすらある。ソファに腰掛けようとして、少し考えて軽く叩くと、埃が舞う。そんな眉をひそめることもあった。
だから、というわけではないが、不二子はアジトを持たない。必要なものは現地調達。現地で調達出来ないならば他所から持ち込めばよし。何より、手をかけられたホテルのほうが、ずっと清潔で便利だ。
だがそれでも、いくつかものを置いてある場所はある。定宿としているところもある。
あまり足繁く通うと鬼警部に嗅ぎつけられそうだが、彼はルパン一筋である。ルパンの足取りが追えないとき以外、彼女に矛先は向けまい。そしてルパンは今、一仕事を終えて地球の裏側だ。
不二子も一枚噛んだ。仕事がうまくいったときの心地の良い高揚感と共にまたねと手を振って、わりあい和やかに別れた足で来たのが此処だ。
しばらくぶりに、何度目かの滞在となる別荘の扉を開けて、数時間ほど経つ。
飛行機でこちらに来るときに、電話をいれて業者を頼んでおいたため、別荘には塵ひとつ落ちていない。
それに満足して、買ってきたものを冷蔵庫にいれて、戦利品を眺めて、簡単に仕分けてから、保管庫に仕舞った。
清掃業者をいれようと関係ない。彼らが触るような場所に隠すほど間抜けではない。だが一応、保管庫には入っているのはほとんどが売り飛ばしてしまうお宝だ。
その取引の算段はこれからだ。精々いい値をつけてもらうとしよう。どのブローカーがいいだろうか、それとも金持ちマダムに縁がある、裕福な男友達にでもご紹介願おうか?
そんなことを考えながら、時差で少々ぼんやりした頭をリセットするために目覚ましをセットする。
スプリングの効いたベッドを軋ませながら目を閉じた。夢は見なかった。
起きあがり、シャワーを浴びて、シャンパンを開けて。眠気と火照りを冷ましてから電話をかける。
お宝の宝石は矢張りブローカーに見立ててもらうことにした。が、馴染みの番号から聞こえてきたのは、悪い流感にかかったからしばらく動けない、という何とも情けないものだった。
他の相手を探すわ、と告げて、悔しげに相手が唸る。だが嘆息と共に、そうしてくれ、というしおらしい声が返った。まぁそいつがわしより高く見立ててくれるならな?
まぁ、とわざとらしい声をあげて笑った。実績と信用のあるブローカーは持つパイプも太い。質の良い商品を仕入れる自分のような業者を持っているということは、同じく質の良い、高く買い取り余計なことは詮索しない客を持っているということでもある。
金払いのいい客は好きだ。下種な詮索をしないのなら、もっと好きだ。
いいブローカーというのはその金払いのいい客とつながっているパイプでもある。
そうね、と不二子はいった。
「あなたが来れないのなら代わりを寄越して頂戴。でもちゃんと目利きかどうかは見させてもらうわ。気に入らなかったら、今回の話はお流れね」
「何だい。いつものことだな」
そうねといって、今度は笑った。
ブローカーは、代わりを寄越すが多少日数がかかること、或いは気に入らなかったら断るのはこっちかもしれないことを告げて、咳をしながら電話を切った。
確かに性質の悪い流感らしい。喉に絡むような、嫌な咳だった。
その咳の音が耳に残り、なんとなく気分を変えたくて大きな窓を開け放った。風が入る。空気が甘い。
数時間の仮眠で、今は夕刻だ。着いたのはまだ昼前だった。
簡単な買い物は済ませてある。空腹も感じない。眠気もない。
さて、本格的にすることがなくなってしまった。
ブローカーが告げた場所はここから遠くないし、まだ日がある。
冷蔵庫にはワインが冷えていて、鴨肉が料理されるのを待っている。
何だか珍しく、誰かを招きたいような気分だ。
ルパンを、と思ったが、彼の空気は鮮やかで、少しばかり騒がしい。この場所の空気の静けさを乱す。乱されてやってもよいか、と思わないでもなかったが、この別荘は知らせないでおきたかったし、つい何十時間か前に別れて来たばかりだ。俺が恋しかった?などといわれるのは癪で、ついでにしばらくはお互いに顔を見ないでいい程度にはからかいあって遊んできた。
誰か、他に。
最近遊んでいる男友達。その誰かでもよい。そう、誰でもよいのだ。ぴんとくる誰かなら。
落ちつかない気持ちで振り返り、ふとテーブルに置かれた硝子の灰皿が目に入った。
ああ、そうだ。手持ち無沙汰ならば煙草を。
吸おうと思って部屋に戻って煙草入れを探したが、ない。
「どこにやったんだったかしら…」
そう呟いて、思い出した。
今回の仕事の、ひとつ前の仕事のときだ。
不二子はルパンの動向が知りたくて、場合によっては邪魔も横取りもしてやるつもりで、素知らぬ顔をして彼のアジトを尋ねた。
アジトには五右ヱ門ひとりが留守番をしていて、今ルパンなら買い物に出かけている、そのうち戻るだろうと答えた。
それなら少し待とうとソファに腰掛け煙草を取り出した。
「お主までそうもくもくと煙を吐き出しておると、アジトが煙たくてかなわん」
不二子は侍の古風な口調を好ましく思っていた。時折その口調が崩れて、乱暴だったり今時だったりすることばを遣うのを見るのも、なかなか愉しかった。
「あたしよりも、あの二人にいって頂戴。ルパンは兎も角、次元ったらまるで人間煙突よ」
「わかっておる。しかし…」
しかし?口ごもる五右ヱ門に、不二子は小首を傾げてにこりと笑う。
「あたしのほうが説得が容易い、なんて思われたのなら、黙ってないわよ」
「違う。いや、お主はそうアジトに根を張って煙草を吹かすわけではないから、文句をいいたくはないのだが…」
「だが?ねぇ、何よ五右ヱ門。はっきりいいなさいよ」
「お主の煙草、鼻が鈍る」
「え?」
「その…ルパンや次元にはない香りがしてな、どうも、こう」
「…メンソール、かしら」
「めん、そぉる?」
「あたしの吸ってる煙草に入ってて、ルパンと次元のには入ってないものよ」
メンソールは好き嫌いの分かれる風味だ。匂いでも嫌い、という人間もいる。だが不二子は嫌いではない。今こうして吸っているモア・メンソールを特別に愛好してるわけではないが、女性用煙草にはよく入ってるメンソールを、まぁよくあるものだと思う程度には気に入っている。
「…そう、五右ヱ門はこの匂い嫌いなのね」
「嫌いとはいっていない。ただ、鼻の奥が少し、つんと痺れるような心地が」
「好きじゃないんでしょ?」
「…まぁ」
好き、ではない。渋々そういった五右ヱ門が、だが、と続ける。
「嫌いでは、ない」
何故そう意固地に言い張るのか。少し考える素振りをして、煙草を唇から離す。
「ねぇ、五右ヱ門」
ソファにちょこんと胡坐をかいて座っている相手に、テーブル越しにふっと煙を吹きかける。五右ヱ門はいつものように眉根を寄せた顔でいたが、煙が煩わしかったのか、一、二度瞬きをした。
「貴方がこの匂いを嫌いなのは仕方ないわ。だって男の沽券に関わるんですもんね」
「…なに?」
「出来なくなっちゃう、なんて面白い都市伝説があるのよ」
「でき…?」
何を、と五右ヱ門が訊く前に、不二子は煙草を灰皿に押し付けた。ルパンと次元がいるアジトの灰皿はいつも一杯で、ジタンとペルメルの隙間にねじ込むようにして吸殻を差し込む。
まだ半分以上入っている煙草の箱に上等のライターを押し込むと、ソファから立ち上がり、すれ違いざまに五右ヱ門の袂にそれを落とした。
「美容のために禁煙することにしたわ。預かっておいてね」
「おい、拙者この煙草の匂いは」
「そのライター、気に入ってるの。それでないとあたし、煙草なんて吸わないんだから。ね、五右ヱ門」
捨てたりしないでね?
五右ヱ門の表情が一段と渋くなる。不二子は愉しくなって声をあげて笑った。
「苦手なものと付き合うのも修行よ。頑張ってね、お侍さん」
それじゃあルパンも帰って来ないし、またね。
アジトを出る不二子の足取りは軽かった。不二子の愛好するものだから、悪戯に嫌いだと断言出来ない、だなんて。
可愛げがあるにも程がある。
服の袖に鼻を押し付けて、すん、と匂いを嗅いでみた。わからない。だが、香水とメンソールの混じった自分の匂いに、あの古風な侍がどんな風に落ちつかない思いをするのかは、わかるような気がする。
くすくすと可笑しくなって笑った。目敏いルパンが五右ヱ門の袂の煙草に気付いて問いただすのが目に見えるようで、それにどう五右ヱ門が返すのか、次元がどう揶揄するのか、想像しただけで面白いというものだ。
(五右ヱ門にあたしの相手をさせて、その間に仕事を済ませてしまおうだなんてした、お仕置きよ)
さぁ、ここで費やした時間は取り戻せるだろうか。不二子は頭の中でルートの算段を立てつつ、乗って来た車のキーを回した。
さて、そのことについて男三人の間でどういう遣り取りがあったのか、不二子は知らない。
知っているのは、今度済ませてきた仕事に五右ヱ門が噛んでいなかった、という事実のみである。
敢えて五右ヱ門はどうしたのだと問いただすことはなかったが、ルパンのことばの端から、いつもの修行だということは察せられた。不二子も仕事に意識が集中していて、別段問いただすことはなかった。
だが、もし、彼らが不二子の想像通りの何かしらの遣り取りをしたのなら。
それはこんな風ではなかっただろうか。
「あーっ、五右ヱ門!ふーじこちゃんの匂いがすると思ったら、手前!なーんだよその箱!不二子の煙草じゃねぇか!」
「こ、これは」
「ほお。じゃあ不二子はここに来たんだな。五右ヱ門、足止め役おつかれさま」
「う、うむ」
「んーなこたぁどうだっていいんだよ。なぁんだって五右ヱ門がそいつを持ってるわけ?」
「ええと、不二子がだな、禁煙すると申してな」
「きんえんん?」
「それで、その、拙者が煙草を預かることになった」
「…お前が預かる必要あんのか?禁煙だろうがなんだろうが、不二子の勝手だろ」
「いや、何でもこのライターでなくてはダメだから、と」
「ああ、そのライター結構いい奴なんだってな。誰それからプレゼントされたとか…」
「俺っ様がもーっといいの、プレゼントしてやんのによー」
「拙者も断ったのだが…この煙草の匂いは好かん」
「ほほう、女嫌いで修行中の身の五右ヱ門も、メンソールは嫌いか。賢いぜ。俺もその匂いは虫が好かねぇ」
「…修行と煙草と何の関係があるのだ?そうだ、ルパン、次元。このめんそぉるとやらには男の沽券に関わる面白い都市伝説があるというのだが…」
そこまで想像して、不二子は吹き出してしまった。その後の遣り取りすらも想像できる。
恐らく爆笑と共にメンソールの都市伝説をまことしやかに伝えられた五右ヱ門は、顔を赤くしたり青くしたりしながら、憤然と箱をルパンにでも押し付けただろう。
そして修行が足らん、と叫んで、アジトを後にした。残されたルパンと次元は肩を竦めて目を見合わせただろう。やれやれ、いつものことさ、と。
だが、きっと、ルパンの手に残された箱に、ライターは入っていなかった。
もし入っていたのなら、ルパンからの恭しいからかいのことばと共に、今度の仕事のどこかで手渡されていたことだろう。五右ヱ門ちゃんからかうのも程々にしてヨ。あんま仲良しだと俺様ヤキモチ焼いちゃう。なーんてね。そんな茶目っ気たっぷりの台詞と共に。
それがなかった、ということは。
あのライターは今でも、彼の侍の懐にある。
自分に預けられたのだから、という古風な侍の律儀さに、不二子は笑う。
ああそうだ、彼を呼ぼう。
きれいに整えられた別荘で、彼ならば、静かな空気を乱さない。それに今度のブローカーとの取引では、どんな相手が来るかもわからない。護衛にはもってこいだ。
招待しようではないか、まだルパンさえも呼んだことがない、呼ぶつもりもない、この別荘に。
修行中でも緊急時や仕事用に五右ヱ門がこれだけはと確保している電話番号へとコールしつつ、不二子は何といおうかと思って口唇を綻ばせた。
儲け話がある、仕事の依頼よ、ライターを返して、預かり賃を払ってあげる、色々あったが、そう、あなたなら灰皿を汚さないから来て、といってみるのも、悪くはないかもしれない。
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title by BALDWIN.
五右ヱ門知らないかなぁ、案外下世話な話も知ってたりするし、どうだろうなぁ。
別荘はどこかな。高原かな、森深いのかな、海辺かな。人里から車を飛ばしてちょっと来た感じのイメージ。
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